ネットで写真を見掛け、余りの美しさに一目惚れした廃診療所がある。
散りばめられたヒントを頼りに場所を特定し、早速現地へ足を運んだ。
蔦を着飾る廃診療所

一目で廃墟と分かる外観である。「覆われている」よりも「着飾る」という表現が相応しい。
ネットの情報によると、元々この建物は昭和初期に産業組合の事務所として建てられたもので、診療所の役目を終えた後は、住居として使用されていたという。

山陰の厳しい冬を目前にし、壁面に這う蔦が色付き始めている。
自然が織り成す美しさは、最早芸術の域を超えている。

診療所時代の「結核予防法指定診療所」と書かれたプレート。
当時、特効薬が無かった結核は「不治の病」と呼ばれ、非常に恐れられていた。抗結核薬の開発によって、現在では完治する病気である。

向かいの民家の番犬が、けたたましく吠えてくるため足早に中へ。
扉一枚隔てた先には、古き良き昭和の香りが息衝いている。

入って直ぐ右側には、投薬口を兼ねた素朴な受付がある。

受付の向かい側には「手術室」と書かれた札が掲げられている。

手術室の壁が大きく崩れ、屋内と屋外の境界が分からない。

検査室へ続く扉は、思わず息を呑む美しさである。

「撿査室」と書かれた札。異体字が使用されている。

老朽化が進み、至る所で床が抜けている。倒れた扉を支えながら、奥へと進んで行く。

待合室らしき部屋も床の状態が酷い。
アスレチック要素が強い廃診療所のため、怪我をしないよう注意しておきたい。

上げ下げ窓の隙間から、まるで血管の様に蔦が伸びている。

階段を上がり2階の部屋へ。長押に掲げられた額には「松髙白鶴眠」と書かれている。
「松高くして白鶴眠る」とは、高く聳える松の木で、白鶴が羽を休め眠っている状況を表している。松と鶴はどちらも長寿の象徴であり、非常にめでたい意味を持つ言葉である。

寝室の壁の横文字の殴り書きに、何故か目を奪われてしまった。

薬瓶や無影灯などの、廃墟マニアが期待するような物は何も残っていない。しかし、私には却ってそれが良い。
滞在時間が長くなればなるほど、建物本来の美しさに心惹かれていく廃診療所であった。
廃墟評価
| 廃墟退廃美 | S |
| 到達難易度 | C |
| 廃墟残留物 | C |
| 崩壊危険度 | A |
| 廃墟化年数 | A |
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