鬼怒川温泉は年間200万人もの宿泊客で賑わう、関東屈指の温泉地である。その一方で廃墟が非常に多いことでも知られている。鬼怒川沿いに廃ホテルが立ち並ぶ姿は、圧巻の一言である。
鬼怒川温泉を訪れた目的は勿論廃墟で、その中でも一際存在感を放つ「きぬ川館本店」を見て行く。
鬼怒川温泉
鬼怒川に架かる吊り橋から辺りを見渡すことが出来る。左側に見えている建物は全て廃墟である。
元禄4年に発見された鬼怒川温泉は、当初「滝温泉」と呼ばれ、日光を参拝した僧侶や大名のみが利用を許された温泉であった。
明治に入ると滝温泉は一般開放となり、新たに「藤原温泉」が発見される。大正元年、黒部ダムの完成により鬼怒川下流の水位が減少すると、更に新たな源泉が発見されるようになった。
昭和2年に東岸「藤原温泉」と西岸「滝温泉」を統一し「鬼怒川温泉」と呼ぶようになり、この名称が現在も定着している。
きぬ川館本店の創業は昭和17年。バブル期に行った無謀な巨額投資など仇となり、平成11年に30億円もの負債を抱え倒産した。鬼怒川温泉では最初に閉業したホテルである。
倒産直前には経営者が夜逃げし、残された従業員たちが必死に自転車操業を続けていたという噂もある。
崖を下り全体を眺めてみる。隣接する「鬼怒川第一ホテル」と競うように増築を繰り返し、建物は複雑怪奇な巨大迷宮と化した。その姿から「陸の軍艦島」とも称される。
手前には温泉を利用したプールがあり、中央に見えるガラス張りの部分が、きぬ川館本店の目玉であるかっぱ風呂だ。
ガラス張りのロビーが温室代わりとなり、植物が育ちやすい環境が整っているようだ。対岸には営業中のホテルが見えている。
何をとち狂ったのか、実は日没まで1時間を切っている状況で探索を強行した。そこら中雨漏りで床が抜けまくったホテル内で夜を迎えると死にかねない。きぬ川館本店の目玉に焦点を絞って、急ぎ足で探索を行う。
床が抜けたロビーには絨毯のようなものが敷かれており、穴が全く見えない。久しぶりの命を脅かす状況に緊張が走る。
かっぱ風呂
まずは一番の目玉であるかっぱ風呂へ。ここまで立派な大浴場は、中々お目にかかれない。秋になると紅葉が非常に美しいだろう。
このかっぱ風呂は男性専用で、男女の入れ替えも無い。女性用の大浴場は非常に狭く質素である。
きぬ川館本店が営業していた時代は、男性を優先し女性を軽視する「男尊女卑」という概念が当たり前のように存在していた。古い廃ホテルの大浴場を訪れると、屡々このような光景を目にすることがある。
割れたガラスからかっぱ風呂を覗く。私のお気に入りのアングルだ。
かっぱ風呂の次に有名なゲームセンターへ。崩れて通れない箇所があり、迂回して何とか辿り着いたが、疲れと緊張で美しさがあまり入ってこない。
きぬ川館本店の解体費用は6億円と見積もられている。しかし所有者と連絡が取れないことや、解体による源泉への悪影響の懸念から、解体の着手は難航している。
解体が先か、倒壊が先か。巨大迷宮廃ホテルの行く末が気になるところだ。
廃墟評価
廃墟退廃美 | S |
到達難易度 | B |
廃墟残留物 | A |
崩壊危険度 | S |
廃墟化年数 | B |
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